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基礎知識

分散クラウドとは?ハイブリッドクラウドやマルチクラウドとの違い

2022年2月25日


分散クラウドとは?ハイブリッドクラウドやマルチクラウドとの違い

物理的に異なるロケーションの複数のクラウド環境を一元管理し、運用するためのアーキテクチャやそれによって提供されるサービスを「分散クラウド」と呼びます。本記事では、分散クラウドの概要とメリット、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドとの違い、分散クラウドの利用シーンについて解説します。

分散クラウドとは

現在のITインフラでは、パブリッククラウドハイブリッドクラウドエッジコンピューティングなどを、用途に応じて使い分けるのが一般的です。特にエッジコンピューティングによるネットワーク遅延の解消や、物理的にシステムを分散させることによる可用性の向上といった、パブリッククラウドでは実現が難しいメリットを享受するために、異なるロケーションで稼働する複数のITインフラを組み合わせて利用することも珍しくありません。

しかし、複数のITインフラの組み合わせ、さらに複数のロケーションに分散したITインフラも含めて管理運用する場合、その煩雑さがネックとなります。そこで、物理的なロケーションに起因するメリットを享受しつつ、かつクラウド間の差異を防ぐための一元的な管理を実現したサービスが「分散クラウド」です。分散クラウドを利用することで、複数のロケーションにパブリッククラウドと同等のITインフラを稼働させることができ、かつそれらをクラウド事業者管理の元で利用することができます。

分散クラウドが求められる背景

従来のパブリッククラウドでは、原則的にリージョンやゾーンを構成する、物理的なデータセンターの範囲内でシステムを構築する必要がありました。しかし、現在ではIoTやモバイルデバイスの普及により、よりユーザーに近い「エッジ側」で処理を行う、エッジコンピューティングの需要がより高まってきています。こうした要求から、データセンターの範囲内だけではITインフラが収まりきらなくなってきています。

ITインフラが置かれるロケーションが重要視される理由は、パフォーマンスの問題だけではありません。現在、サーバーの設置やデータの保存を国や地域内で行うことを求める「データローカライゼーション」規制が拡大しつつあります。クラウド上に保存したデータは、インターネット越しにどこからでもアクセス可能なため、実際にデータが保存されているロケーションを気にする必要はありませんでした。しかし、こうした規制によって、実際に事業を行うロケーションを意識して、データを保存する必要が出てきているのです。

近年、オンプレミスからクラウドへの移行が加速していますが、すべてのITインフラをクラウドへ移行できないケースでは、折衷案としてハイブリッドクラウドを選択することもよくあります。しかし、オンプレミスとクラウドの双方を管理しなければならないハイブリッドクラウドでは、ITインフラ間で実現できることの差異が生まれ、加えて本質的にシステム管理の一元化が難しいという課題を抱えています。

こうした現在のITインフラが抱える課題を解決するため、分散クラウドが求められています。

分散クラウドのメリット

分散クラウドのメリットの1つは、異なるロケーションにあるインフラを組み合わせられるため、物理的な制約を気にせず、エッジコンピューティングなどを利用しやすい点です。これにより、従来のパブリッククラウドに比べて、低遅延の高速分散処理も行いやすくなります。また、データを一箇所に集約させなくても処理が可能なため、国や地域ごとのデータ保護・国外移転の規制もクリアしやすくなります。

また、同一のコントロールプレーンで管理できるため、ITインフラが物理的に異なるロケーションで稼働していても管理がしやすいこともメリットです。冒頭で述べたように、複数の環境を組み合わせて運用しようとすると、一般的にその手順は煩雑になりがちです。しかし、分散クラウドであれば、複数のロケーションに存在するITインフラを1つのパブリッククラウドのように管理できるのです。これには、管理下にあるITインフラを同一のガバナンスで管理できるため、情報セキュリティのコンプライアンス維持がしやすいという副次的な効果もあります。

さらに、分散クラウドの運用はクラウド事業者が行うため、パブリッククラウドと同様に最新のサービス・技術が自動的に導入されるという効果も見込めます。

マルチクラウドと異なる点

分散クラウドは複数の環境を一元管理して運用するという特性上、マルチクラウドと似ている部分も多く存在します。マルチクラウドの運用管理ソリューションの中には、単一のコントロールプレーンで複数のクラウド環境を運用管理する製品も存在するため、実現できることが一部重複しているのも事実です。具体的な例を挙げると、分散クラウドの主目的の1つとされる「可用性要件(ベンダーロックインの回避、複数ベンダー利用によるDRやバックアップの実現)」は、マルチクラウドでも実現可能です。

しかし、分散クラウドは、単一のクラウドサービスで設置するロケーションに応じたメリットをそのまま活用でき、環境間の差異を削減することが可能です。ここは、複数のクラウドを組み合わせることで差異が生まれてしまうマルチクラウドと比較して、明確に優位な点だと言えるでしょう。

「配下のITインフラ・サービスを分散させることで、応答時間やパフォーマンスに関する要件を達成する」という点はマルチクラウドの目的とも重複しますが、それを単一のサービス上で管理できることは明確に異なると言えます。

まとめ

5G通信網を通じてクラウドに接続するIoTデバイスは、今後ますます増加してゆくでしょう。こうしたデバイスによって生成された膨大なデータを円滑に処理し、交通や医療や金融、そして公共機関のサービスなどでスムーズに利用できるようにするには、レイテンシーと可用性が大きな課題となります。また、グローバルでデータ活用を行う場合、国や地域ごとの規制を回避する必要性も高まってきています。現在でも、データをエッジロケーションに配置することでパフォーマンスを向上させるコンテンツ配信ネットワーク(CDN)は、すでに幅広く活用されています。

現状、低遅延・高速処理を実現するためには、クラウドとオンプレミスを併用するハイブリッドクラウドやプライベートクラウドが選択されるケースが多いでしょう。また、エッジコンピューティングやマルチクラウドもこうした問題を解決するための有力なアーキテクチャの1つです。そして、分散クラウドは、パブリッククラウドのサービス上でこれらのアーキテクチャと同様のメリットを実現し、同時に生じるさまざまな課題を解決するためのアプローチだと言えるでしょう。

現状では、分散クラウドをサービスとして提供しているクラウドベンダーはそれほど多くありません。しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、より多くのデータをクラウド上で処理する必要が生じることで、分散クラウドへのニーズもまた高まっていくと考えられています。

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